WTOの行方―自由化の調和を担え: 朝日

自由貿易の基盤を作ってきた世界貿易機関(WTO)の多角的貿易交渉(ラウンド)が岐路に立っている. 交渉12年に及ぶドーハ・ラウンドは今月、何とか3分野で部分決着にこぎ着け、「崩壊」は避けられた. だが、ラウンド全体の交渉は自然消滅するとの見方も強い. そうなればWTOのルール作りの機能が弱まり、自由貿易体制の求心力まで低下し、保護主義を助長しかねない. 加盟国は交渉継続のため、知恵を絞ってほしい. 今回合意した3分野は、先進国が途上国向けの関税撤廃枠を広げる「開発」、通関手続きの改善といった「貿易円滑化」、そして「農業」のうち途上国の補助金をめぐる扱いなどだ. 農業分野の大半を含む残る6分野は、物品の関税引き下げやサービス貿易の一層の自由化など、159カ国に増えた加盟国が足並みをそろえるのは難しいものばかり. 今後の交渉計画は1年かけて練り直す. 継続の流れを絶やさないためには、新たな候補分野を加えて枠組みを弾力的に見直すことも考えられよう. IT製品の関税引き下げ協定のように、特定分野で有志国から自由化を広げる取り組みを増やしてラウンドを補完するのも一案だ. 一連の交渉難航の根底には、WTO発足当初からある南北対立がある. 途上国にとっては自由化の負担が増す一方、先進国の市場が十分開かれていないとの不満が募る. かたや先進国は投資など新分野の自由化が途上国の反対で果たせず、ラウンドへの熱意を失った. さらには新興国の台頭と世界の多極化という環境変化が重なる. これを背景に米中がにらみ合い、行き詰まった. 当初は市民団体から「グローバル資本主義の手先」として糾弾されたWTOだが、自由化の矛盾を是正する交渉の場としての性格も帯びてきた. この機能を失ってはならない. 世界は、国や地域ごとの自由貿易協定(FTA)が乱立する時代に入った. だが、FTAで南北問題そのものが消えるわけではない. 多数のルールが並立することで経済活動が煩雑になり、かえって自由貿易を阻害する弊害も指摘される. いずれFTAの整合化に向けた機運も高まろう. その場はWTO以外に考えにくい. 最も開かれた自由化の礎として、乱立する個々の自由化を調和させる舞台として、WTOの役割はなお大きい.

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